01:携帯電話/響鬼



 春も浅い森に、携帯電話の着信音が鳴り響いた。たちばなからの電話だ。ダンキは急停止し、キャンプのテーブルに飛びつく。
 先に行くようショウキを促すが、彼は肩をすくめ、その場にとどまった。
「はい、こちらダンキ」
『あ、ダンキ? お疲れさん』
 電話の主は、めずらしいことにヒビキだった。なぜか声がくたびれている。
『あのさぁ、少し頼みがあるんだけどさぁ』
 ずいぶんと歯切れが悪い。いらぬ想像をしそうになって、慌ててふりはらった。ツチグモが実は擬態ヤマアラシでした、とかいうオチは勘弁してほしい。
『京介をちょっとだけ面倒みてくんない?』
「……はぁ!? え、マジで!?」
『ヤキ入れてほしいって言うかさあ……ほら、少年助けるのに変身してさ、自信つけたみたいなのね』
「勘弁してよ、ヒビキさん!」
『ね、頼むよ、おやっさんにも許可もらったから。明日から、ね、よろしくー!』
 じゃ、という声を残して電話は切れた。慌てて電話をかけるが、まったく通じない。何度かけても誰も出ない。ダンキの堪忍袋の緒はあっさりと切れた。
「1回変身したくらいで調子乗んなぁぁっ!」
 携帯電話をぶん投げる。しかも、全力で。
「ちょっと、何してんだよダンキ!?」
 ショウキは慌てて受け止めた。手の中で嫌な音をたてたが、原形は保っている。中にダメージがなければいいが。
 怒り狂うダンキが突然走り出した。
 可哀想に。ツチグモはボッコボコにされるだろう。ダンキの大人げない八つ当たりで。
 携帯電話をテーブルに置き、ショウキは後を追った。
 京介が来たらソロに戻ろう。巻き添えを食って、ダンキの怪力でぶっ飛ばされてはたまらない。