03:本/響鬼



 音撃弦・刀弦響の整備は完璧。あとはディスクアニマルの帰還を待つばかりだ。
 バンキは椅子に座り、読みかけの本を開く。おどろおどろしい挿絵がある妖怪図鑑は、バンキのすっきりと男らしい外見にはあまり似合わないものだろう。別に気にはしないが。
 浄めの対象はバケガニだが、予測はあてにならない。オオアリかもしれないし、ツチコロビやオオムカデという可能性もある。
 異常発生は、一向におさまる様子がない。予測とは違う魔化魍の出現にもすっかり慣れてしまった。鍛えれば、自然と事態はついてくる。そんなものだ。
 バンキは情報収集を欠かさない。猛士の資料だけではなく、巷間の本もよく読む。猛士のデータベースにない魔化魍でも、意外に載っていたりするのだ。
 キハダガニが戻ってきた。器用にテーブルの脚を上り、バンキの手元で跳ね回る。つかまえて再生するが、音は入っていなかった。
 冬の陽光につばさをきらめかせ、アサギワシが舞い降りる。本を閉じ、口笛を吹くと、アサギワシはディスクとなって落ちてきた。空中でつかまえ、再生する。
「ヒット」
 小さくつぶやく。そのアサギワシには、甲殻のきしむ音と、虎に似た甲高い鳴き声が記録されていた。
「……ツチグモか」
 あまり得意な相手ではないが、互角以上に戦えるだろう。魔化魍の研究を欠かさないのは、イレギュラーにも対応するためだ。
 刀弦響をつかみ、立ち上がる。
「案内頼むよ」
 ディスクを投げ上げる。空中で変形したアサギワシは、任せろと言わんばかりに高く鳴いた。
 その後を追う。横顔は闘志に満ちていた。