04:歯ブラシ/響鬼



 ショウキは空を仰いだ。吐息がもくもくと空へ昇っていく。薄雲にかかる月は細かった。
 山の夜は冷える。10月も終わりに近いからだろう。気の早い葉が紅葉しているのを、昼間見つけた。ふざけたリョクオオザルが飛びついて、すぐに散らせてしまったが。
「出るかね、ツチグモ」
 つぶやいたショウキは、焚き火に枝を突っこんだ。テントの入口が跳ね上がり、歯ブラシをくわえたダンキが顔をのぞかせる。豪快に口をゆすぎ、大きく息をついた。
「出ないと俺ら無駄足だろ」
「そりゃそうだけど。まだ見つかんないってのがね、俺は納得いかないんだけど」
「ディスクも戻らないしな……おぉ?」
 森の奥からディスクアニマルの群が戻ってきた。大きな損傷はないように見える。ショウキが手を振ると、真っ先に戻ってきたリョクオオザルが、枝で見事な大車輪を決めた。
 これが、最後の探索。当たりがなければ山を下りる。町と山をふたつほ越えた山の方で、ウブメが発生したらしい。
 リョクオオザルを再生するが、外れ。歯ブラシをテーブルに置き、ダンキはアサギワシをつかまえた。再生するが、外れだったらしい。小さく首を振る。
 ディスクアニマルは次々と戻ってくるが、外れのピンが増える一方。
「山の方にゃいないみたいだね」
 ショウキがつぶやいた瞬間、足下で軽い音がした。視線を向けると、枯れ葉の中に青い歯ブラシが落ちている。
 その隣にはオオリョクザルがぽつんと立っている。歯ブラシで大車輪を決めようとして落ちたらしい。
「お前、これ、買ったばっかじゃーん!?」
 ダンキの悲鳴じみた声が、夜の森を揺るがした。オオリョクザルが慌てて逃げていく。