ふしぎ発見/FF零式 可愛いさえずりが聞こえ、ジャックは顔を上げた。ここは裏庭だ。なぜ、ひよチョコボの声が聞こえるのだろう。 裏庭にいるのは2人。素振りしているジャックの他には、ベンチでぼんやりとカードを眺めているエースがいるだけだ。となれば、犯人は間違いない。むしろ、零組の中でチョコボの声が聞こえたら、疑っておけばほぼ間違いない。 今はマキナもいないことだし。 刀をしまい、汗を拭き拭きエースの元に向かう。エースは少しも顔を上げなかった。 「ねー、チョコボつれてきてるんでしょ」 「なんのことだ?」 動揺などかけらも見せず、エースは次のカードをめくる。視線ひとつよこしやしない。小刻みに揺れる鞄を見れば一目瞭然だったが、さりげなくマントで隠そうとしている。 さらに汗を拭きながら、ジャックは鞄を指さした。 「それ、チョコボだよね。そんなとこ入れててさあ、呼吸困難とか大丈夫なの?」 「……鍵は閉めてないよ」 今度はあっさり認めた。指を鳴らしてどこへともなくカードをしまうと、鞄の蓋を開く。 待ってましたとばかりに、ひよチョコボが顔をのぞかせた。ぴょいと飛び出す。愛らしい声でさえずり、小さなつばさを羽ばたかせて、ジャックの顔の前まで飛んでくる。 もふもふしたくなる愛らしさだ。 肩に止まろうとしたらしいが、距離を間違えたらしい。ジャックのむき出しの二の腕あたりでじたばたしている。 「うわー、こいつ元気だねえ」 めずらしい緑の目を輝かせ、チョコボは空中でくるくると回る。手を差しだせば、迷うことなく着地した。 ジャックの顔を見上げ、おしりを振りながら歌う。 「こいつどうしたの?」 「牧場を出ようとしたらついてきたんだ。ちゃんと言ったし、無断じゃない」 エースの性格ならそうだろう。チョコボをこよなく愛する男だ、むりやり連れてくることなんか絶対にしない。鞄に入れたのも、ひよチョコボが入りたがったからだろう。 「そいつの目を見ると、なにかを思い出しそうなんだ」 「マキナじゃないの? 目の色同じー」 「なんで、同じクラスにいる人間を思い出さなきゃならないんだ」 「それもそうだねえ」 なに言ってんの、と言わんばかりの目で眺めやられた。チョコボのまなざしが友愛にあふれているだけに、エースの冷たい視線が刺さる。 (まあいっか) 特に気にしないことにした。零組教室に続く扉が開き、そちらに気を取られたからというのもある。 姿を現したのはトレイだった。ジャックたちを見るなり、微かに眉を寄せる。半裸のジャックにあきれたのか、あるいは、裏庭にいるはずのないひよチョコボに疑問を抱いたのか――だが、トレイが口にしたのはまったく別の言葉だった。 「これではしわだらけになってしまいますよ」 テーブルに歩み寄ると、無造作に丸めて置いておいたジャックの制服を手にする。 「あー、そっちなんだ。チョコボじゃなくて」 「チョコボを連れてきたのはエースでしょう? 心配いりませんよ。君が半裸でいても風邪を引くような季節でもないですし。それより、君の明日の制服が心配です」 たたむ手つきはなめらかだ。制服もマントもシャツも、ぴっちりきっちりたたんでくれる。消えたはずの折り目も復活したような気がする。 ひょっとして、制服は寝押しではなくアイロンがけだろうか。いや、そうに違いない。 むしろ、寝押ししているトレイというのが想像つかない。就寝前の日課がアイロンがけでも、ジャックは驚かない。別に見たいとは思わないが。 「ああ、エース、チョコボ牧場の方が君に来てほしいそうですよ」 「そうか……わかった」 「あ、伝言に来たの? 僕の制服たたんだのはついで?」 ものすごく胡乱な顔をされる。トレイはもちろん、エースにも。 「……制服をたたむのが本命で、伝言がついでという状況が思いつきませんが」 それもそうか。 立ち上がったエースにひよチョコボを手渡すと、彼はそっと鞄にチョコボを下ろした。ひよチョコボは首をすくめ、おとなしく中に収まる。 扉が軽い音を立ててしまった。 ぴしっと制服をたたんでくれたトレイは、満足そうにひとつうなずく。そのまま墓地へ行こうとするのを、なんとなく引き留めてみた。 「ねー、なんで伝言頼まれたの?」 「牧場にいたからですよ」 「なに、トレイってチョコボ好きだっけ?」 ふしぎそうに目をしばたたかせる。 「嫌いになる理由がないでしょう。彼らは賢くて、愛らしくて、勇敢です」 「非常時には食料にもなるしー?」 「それはあまり考えたくないですね」 全面的に同意だ。 そう考えると、チョコボ牧場の職員たちは、意外と強者なのかも知れない。チョコボへ最大限の愛情を注ぎ、牧場でいちばんえらいのはチョコボだと言い放ちながらも、いざというときの非常食と言ってはばからない。 もしかして、チョコボへの本物の愛情というのは、非常食扱いができるか否かで別れるのだろうか。 エースに訊いてみたい気もしたが、訊ねたが最後、雨のごとくカードが襲いかかってきそうな気がする。やめておいた方が身のためだろう。 |