今日から相棒 / ダブル



 探偵助手、あるいは相棒。そう位置づけた少年は、翔太郎にとって極めて扱いづらい性格をしていた。
 ダブルへの、2回目の変身。フィリップはためらいなく自らの体を捨て、翔太郎の半身に宿った。目の前に敵がいたにもかかわらず、だ。
 翔太郎はそれをなじる。
「変身するときは、安全なところに逃げろ。あのままだったら殺されてたんだぞ」
「そうなってもまったく問題がないよ。僕の体が死んでも、精神はしばらく残る。戦いに支障はないさ」
「お前が死んだら意味がない!」
「なぜ? 僕が消えて悲しむ人間が、どこかにいるかい?」
 あまりの言い様に唖然とする。近しい人を失ったばかりの人間に言うことではない。
 共同生活を初めて、2週間。まだ絆と言えるほどのものはないが、それでも、翔太郎は人間らしく暮らすことさえ不慣れな相棒に、それなりに優しく接してきたつもりだ。
 フィリップを目の前で失って、翔太郎が平然としていられると思っているのだろうか。
「あのな……」
「仕方ないことだ。どちらかの魂がもう一方に宿ることによって、ダブルの力は完成する」
「……逆の立場だっただらどうする」
「それはありえない。僕の体を使うよりも、君が戦った方がずっとも勝率が高い。肉体的な資質が、翔太郎と僕では圧倒的に違うんだ。この先もそれは変わらない。君が主導権を握り、僕はそれに従う」
 なぜこうも無頓着なのだろう。おやっさんが命がけで助けたのだ。少しは生きることに貪欲になってもいいのに。
 命を軽んじるような態度にめまいがした。
「君という人間はひとりしかいない。体を壊されては、生きていられないだろう?」
「お前だってそうだろ。こんな不公平な取り決めがあるか! 俺は認めねえ」
「選択の時は過ぎた。君はすでに悪魔と相乗りしている。それが嫌なら、ダブルの力を捨てるかい?」
 捨てる、と言ったら。フィリップはどうするのだろう。
 いや。言えるはずもない。実行に移すことなど絶対にできない。風都を守る、おやっさんの遺志を守る、おやっさんが命を賭けて救い出した少年を守る――。そのための力だ。
 フィリップの両肩をつかみ、顔を覗きこむ。見返す瞳は、底が見えぬ漆黒に輝いていた。
「今度から、お前はなるべく安全なところにいろ。現場に行くのは俺だ。お前の体が危なくなったら、俺はドーパントよりもそっちを優先する」
 ぎりぎりの譲歩。
 考えこむ様子を見せたが、やがてフィリップはうなずいた。
「努力しよう」
 どこから来たのかも知れぬ少年。それでも、彼も風都の人間であることに変わりはない。