ふたりでひとり/ダブル



 あれは果たしてマイペースと言っていいのか。人のベッドに座り、ふたりの刑事を興味深そうに眺めている相棒を横目で見やり、翔太郎はため息をついた。気を利かせてコーヒーのひとつも入れてくれればいいのに、刃野たちが来たその瞬間からベッドに陣取り、何かをじっと観察している。
 刃野は居心地悪そうにしながらも、ツボ押し器でぐいぐいと肩を押している。真倉は威嚇するようにフィリップを睨んでいるが、フィリップは完全に無視して刃野の動きに見入っていた。
 どうやら、ツボ押し器が気になって仕方ないらしい。
「めずらしいっすね、刃さんがうちに来るなんて。なんか厄介なヤマでも?」
 ソファにふたりを座らせ、翔太郎は刃野の対面に座る。興味を引かれたらしいフィリップもひょこひょこと出てきた。椅子の横に背をもたせかけ、翔太郎の腿に頭を載せるようにして床に座りこんだ。
 さすがに叱ろうかと思ったが、放っておくことにする。
「不可能犯罪、ってやつだな。お前さん、最近こういうのに妙に詳しいじゃねえか。なんか知らねえかと思ってな」
「一体どんな事件なんです?」
「人が溶けるんだよ、探偵」
 真倉がおどろおどろしい口調を作り、顔を歪めて言った。
「目の前を歩いてた人間が、いきなり溶けて消える。強烈な混酸液でもかけられたみたいにな」
「溶ける……?」
 ちらりとフィリップのつむじを見やる。視線に気づいたフィリップはすぐに顔を上げ、小さくうなずいた。
「情報集めて、あとで送りますよ。なんか他にわかってること、あります?」
「あとでだぁ? 何のつもりだ、探偵!」
「やめろ真倉。翔太郎には翔太郎の考えがあるんだろ。そっちの坊や助手もなんか知ってるみたいだしな」
 刃野の視線に、フィリップはわずかに微笑んで見せた。めずらしいことに、刃野はフィリップのお眼鏡にかなったらしい。

 刑事たちが帰ってすぐに、翔太郎はフィリップを振り返った。
「入ってくれ……地球の本棚に」
「わかってる。僕たちはふたりでひとりの探偵だもの」
 地球の本棚に降りていく相棒。その揺るぎない声が、頼もしい。
 同時に思うのだ。フィリップには翔太郎しかいない。翔太郎のように、他に親しい人間がいるわけでもない。彼の世界は、地球の本棚と翔太郎のみで完結している。
 そういう意味では、今日、刑事たちに会うことができたのは僥倖だったのだろうか。
 キーワードをせかす声に苦笑し、翔太郎はひとつめの言葉を口にする。