小さな幸せ/ダブル



 12月に入ると、翔太郎とフィリップの関係もだいぶ落ち着いた。
 翔太郎は普段はフィリップに自由にさせておき、必要なときに手元に呼び戻す。フィリップもいつもは好き勝手に検索に打ちこんでいるが、翔太郎が頼んだときは――それがもし可能なら――検索をはやめに切り上げて、翔太郎の告げるキーワードを探す。
 ダブルとしての戦いにも慣れてきた。
 ガレージに匿うことになった少年が知りたがりの子供なのだと知ってから、翔太郎はことあるごとに小さなプレゼントを贈った。事務所の小物がどんどん増えて、収納スペースを圧迫していったが、新しいものを見つけるたびに目を輝かせる姿を見れば、苦にはならなかった。奪われた時間のあまりの重さに胸を痛める。
 その日、ドーパントとの戦闘でダウンしてしまった相棒の元へ翔太郎が持ち帰ったのは、厚みが2センチほどの、長方形をした薄っぺらな箱だった。
 サンタクロースや雪だるまが雪山で輪を作って踊っている図柄を見て、フィリップは興味深い、とつぶやく。その瞳が子供のように輝いているのを見て、翔太郎は選択が正しかったことに満足した。
「翔太郎、これは何?」
 事務所のソファに座っていたフィリップは、薄い箱をためつすがめつする。
「そりゃアドベントカレンダーだ」
「アドベントカレンダー……」
 検索を始めようとするフィリップの前に手を差し出す。興味を惹かれたのか、彼の視線は翔太郎の指先を追った。
「ここに数字があるだろ。これが日付だ。一日なら1、二日なら2……そうやってひとつずつ窓を開ける。やってみな」
「今日は四日。なら、4ついいのかい?」
 やってみろと促すと、興味津々と言った体で、右下に「1」と描かれた波線部に爪を立てる。ゆっくりと切り開くと、厚紙の窓の向こうに、雪だるまの形をしたチョコレートがちょこんとおさまっていた。
 まるで壊れ物を扱うかのように、テーブルの上にチョコレートを載せる。次いで2と3の窓も開け、少しずつポーズの違う雪だるまを取り出した。
 4番の窓に爪を立て――フィリップが動きを止める。何かを考えこむようにアドベントカレンダーを見つめていたが、はい、と翔太郎に差し出してきた。わざわざ向きを変え、翔太郎に正面が向くようにして。
「……なんだ?」
「僕ばかりじゃつまらない」
 それが精一杯の誘いなのだと気づいて、なぜか泣きそうになった。
 翔太郎が開いた窓の向こうの雪だるまは割れていたが、フィリップはそれを大切そうにテーブルに並べた。
 4つの雪だるまが、跳ねるように踊っている。