プレゼント/ダブル



 差しこむ陽射しはだいぶ夕方へと傾いている。柱にもたれたフィリップはおとなしく本を読んでいるし、翔太郎自身はと言えば、報告書の作成を終えてコーヒーを楽しんでいた。
 ふと顔を上げると、階段を登る音が聞こえた。クリスマスイブに依頼者とは、無粋だ。
 インターフォンが鳴らされた。立ち上がった翔太郎が返事をするよりはやく、2回目が響く。嫌がらせかと思うような勢いで、インターフォンが連打された。
 本を取り落としそうになったフィリップが、驚いたように扉を凝視する。
「誰だ!? インターフォン押しまくってる馬鹿は!?」
 わめきながら扉を開くと、目の前に巨大なプレゼント袋が鎮座していた。
「メリークリスマス!」
 プレゼント袋が動き、それを背負っている人物が満面の笑顔で振り返った。怪しい紫のサングラスに、何かどこかが違うサンタクロースの扮装――。
「サンタちゃんか……なんだよ、いきなり」
「今日はクリスマスイブ! プレゼント、届けに来たよー!」
「いや、こないだもらったよな。なんかあの……黒ひげ危機一髪だっけ?」
 確か、クリスマスが近いから、という理由で、通りすがった翔太郎にくれたのだ。
 サンタちゃんはもちろん気にしない。プレゼント袋を床に下ろすと――おそろしいほど重たい音がした――派手な効果音と共に、目がつぶれそうなほどきらびやかにラッピングされた袋を取り出し、翔太郎の腕に押しつけてくる。
「はい翔ちゃん、メリークリスマス!」
「いや、だから……」
「気にしなーい、気にしなーい」
 サンタちゃんは戸口の翔太郎をあっさり押しのけると、成り行きを観察していたらしいフィリップに歩み寄った。白い歯を見せつけるように笑いかけると、いつも以上にテンションの高い効果音をつけて、カラフルに包装された箱を押しつける。
「初めての君にも、はい、メリークリスマス!」
 フィリップが戸惑ったように一抱えもある箱を受け取ると、サンタちゃんは満足そうに大きくうなずき、クリスマスに沸きたつ街へと消えていった。
「あれは何だい? サンタクロース……?」
「まあ、似たようなもんだ。とりあえず開けてみろ」
 翔太郎が開けた袋には、一抱えもある真っ白なクッションが入っていた。可愛らし過ぎて翔太郎が使う気にはなれない。ガレージにでも置くか、と結論づける。
「おいフィリップ、そっちは……」
「翔太郎! これは何!?」
 どこか悲鳴じみた声に慌てて駆け寄る。きれいに包装紙のはがされた箱の中身を見た翔太郎は絶叫した。
「なんっじゃこりゃー!?」
 フィリップに渡された箱に入っていたのは、本物の子犬だった。