プレゼント2/ダブル



 サンタちゃんからもたらされた子犬の処遇に、翔太郎は頭を悩ませた。耳としっぽの先、それに手足が真っ白な柴犬の子は、可愛らしく首を傾げて、箱の中から翔太郎たちを見上げている。丸いしっぽが愛嬌たっぷりに揺れていた。
「翔太郎……これ、どうするの?」
 フィリップは不思議なものでも見るような目で子犬を見下ろしている。
 犬を飼うような余裕は、はっきり言ってない。それはサンタちゃんもわかっているはずだし、彼の気質から言って、小さな命を気軽に他者に渡したりしないはずだ。プレゼントにするはずも、もちろんない。
「首に何かをつけているよ」
「首?」
 遊んでくれると勘違いしたのか、箱の中で精一杯伸びあがる子犬を捕まえ、目の高さに抱え上げる。赤茶色の被毛に埋もれるようにして、可愛らしい赤の首輪がつけられていた。
「こいつ、飼い犬か……? 名前とか住所ないか」
 首輪を外して調べてみたが、見つかったのは子犬の名前だけだった。
 どうやら、サンタちゃんは迷い犬を保護してきたらしい。それならそうと言ってくれればいいのに、というのが半分、サンタちゃんらしいというあきらめまじりの感想が半分。

 フィリップは翌日から忙しく風都を飛び回りはじめた翔太郎の代わりに、よく子犬の世話をしてくれた。翔太郎の見よう見まねと検索の結果らしいが、ボールを投げてやったりはたきでからかってみたりと、意外と楽しそうにしている。
 相棒のめずらしい少年らしい笑顔に、このまま飼い主が見つからなければ、飼っても良いかも知れないなどと、翔太郎も思いはじめた。
 思わぬ展開が訪れたのは、その2日後。
 飼い主が見つかった。翔太郎が外の掲示板に貼っておいた張り紙を見たらしい。飼い主の腕に抱かれて遠ざかっていく子犬を階下のドアで見送った翔太郎は、ガレージから出てこようとしなかった相棒が、すぐ後ろに立っていたことに気づいた。
「行っちまったぜ、相棒」
「彼女は本当の居場所に帰ったんだね」
 人間に対するような物言いに戸惑う。翔太郎が事務所へ戻ろうとすると、おとなしくあとをついてきた。
「寂しいか? 犬が行っちまって」
 損得もなく懐き、翔太郎にもフィリップにも分け隔てなく甘えてきた小さな温もり。その無邪気さは、フィリップの凍土をゆるめただろうか。
「なぜ寂しいなんて思うんだい?」
 答えは質問という形で返された。相棒の心の欠損の深さに、胸の底が冷える。
(こいつの居場所は、もうここにしかないんだ)
 噛みしめた事実には本当にその意味しかなくて、翔太郎は憂鬱なため息を落とした。