隣り合う魂/ダブル



 ハードボイルダーを降り、ダブルドライバーを装着する。よろよろと起きあがったドーパントが、よくわからない言葉をわめいた。
「新年早々ドーパントか。三が日は仕事も休み……けだるい日々を過ごそうと思ってたんだがな。書き初めならぬ変身初めか」
 フィリップと意識がつながる。この感覚を、どう表現したらいいのかわからない。
 自分のものだと思っていた思考に、ほんのわずか色が加わる。自分のものではない息づかいと拍動が体内に響き、ずれていた音が少しずつ重なっていく。気づくと、全身をめぐる血液がいつもよりも熱く感じられるのだ。
「行くぜ、相棒」
『サイクロン』
 フィリップの聴覚を通して、ガイアウィスパーがささやきかける。
『ジョーカー』
 奥底に眠る「切り札」が、呼ばわる声に目を覚ます。
「――変身」
 胸の底で炎が燃える。吹き抜ける風は、転送されてきたサイクロンメモリ。
 右半身がほんのわずか熱を帯びて感じられるのは、ふたり分の魂が重なっているからだろう。自身の中空に浮いている意識の膜に、自分のものではないやわらかな揺らぎを覚える。寄り添うようなそれが、転送されてきた相棒の魂だ。
 もっとも近しい他人。他人であり、自分。
 2本のメモリを差しこみ――巻き起こる風を突き破り、ダブルが顕現する。
 旋風の右半身、切り札の左半身。流れる力の方向性は真逆と言ってもいいほどかけ離れているのに、その本質は薄い層を隔てて隣り合う川と伏流のようなものだ。ひとつに合わさったとき、驚異的な力を発揮する。
 ドーパントが気圧されたように数歩下がった。大いなる力をまとい、ダブルはゆっくりと構える。
「さあ、お前の罪を……」
 かっこよく決めようとした瞬間、フィリップのせっぱ詰まった声が脳裏に響いた。
 ――翔太郎、はやく! おもちが硬くなるよ!
「もちぃ!?」
 逃げようとしたドーパントが、あっけにとられたように振り返る。聞き間違いを疑うように首を傾げていた。ものすごく馬鹿にされている気分だ。
「馬鹿! もちより俺の心配をしろ!」
 ――君は食べただろうけど、僕はまだおもちを食べてない!
「呼んだのにさっさと来ねえからだ! 何度呼んだと思ってる!」
 空へ向かって怒鳴るダブルを横目に、ドーパントがその場を離れようとする。
「逃げんな!」
 叫んだ翔太郎の蹴撃は、見事にドーパントの後頭部を直撃した。