おおカレー / ゴーカイ マーベラスの顔が凶悪だ。ハカセに詰め寄る横顔を見やり、ジョーはため息をつく。 「いいからカレーだ。カレーを食わせろ」 「だから、まずはデータをとらないと話になんないんだってば!」 「待ってられるか。今すぐだ、今すぐカレーを食わせろ」 「そんなぁ!」 ハカセをじりじりと壁際に追い詰めていくマーベラス。どうやら、空腹で機嫌が最低レベルらしい。食べてもいないものを作れと迫られるハカセも可哀想だが――地球に来て初めて知った食べ物を再現しろと言われても、すぐに用意できるはずがないと気づけないマーベラスも哀れだ。 おまけに、スナック・サファリのカレー以外は認めない、とまで言い出した。食べてもいないものをどう判断する気でいるのか。 本格的に頭が止まっているらしい。 すでにレトルトのカレー――これは、備蓄として船内に備えておくのもいいかもしれない――で満足していたジョー以下4人は、それぞれの時間を過ごしているところだった。ルカとアイムは自室に戻り、ハカセはレーダーの改良に取り組み、ジョーは螺旋階段に腰かけて武器の手入れ。 マーベラスの腹の虫が盛大な叫びを何度かあげた後、彼は、突然ハカセに詰め寄ったのだ。すっかり油断していたハカセは、うっかり首を締め上げられそうになっていた。 「店長にレシピもらって……食材そろえて……1日じゃ足りないくらいだよ!」 「くそ……あんなにうまそうだったのに……」 「レトルトも十分うまいが」 マーベラスはまったく聞く耳持たない。すでに目が据わっている。頭を抱えてしゃがみこんだハカセの頭を揺さぶった。 「お前ならできるだろ、ハカセ」 「こういうときだけそういうのやめてよ……」 がくがくと振り回されるハカセの声は、すでにあきらめモードだ。あんなに揺さぶられたら、むち打ち症も危ないかも知れない。湿布程度で足りるとは思えないが、いちおうは用意しておくべきだろうか。地球の医者にかかるのは最善とも思えない。 外見は似ているが、中身まで同じとは限らないし。 不意に、沈黙を保っていたナビィが羽をばたりと動かした。金色の目がらんらんと輝いている。 「感じちゃった、感じちゃった……お宝の気配!」 マーベラスはハカセを放り出した。ハカセが頭をぶつけるものすごい音がしたが、振り返りもせずにナビィに詰め寄る。空腹と思考停止でぎらついた眼光には、もはや冷静さなどかけらもない。 「おい、大丈夫か」 その場に伸びてしまったハカセに歩み寄る。彼はうつぶせになったまま、手首から先だけを動かした。 「……大丈夫、なんとか」 「今なら逃げられるぞ」 「うん、ありがと。あっちのほうは、なんとかやってみるよ。このままじゃ怖いし」 固有名詞を出さないのは、関心が戻ってくるのを恐れてか。 部屋に戻るというハカセに肩を貸し、ナビィを抱えて振り回しはじめたマーベラスに見つからないよう、そっとサロンを出る。ばれる頃には、マーベラスの気も変わっているだろう。 変わっていなかったら、部屋で情報収集しているハカセの下にも押しかけるだろうが、そこまではどうしようもない。 「お前、できるんだろうな」 「あのお店の? うん、まあ……なんとかなるんじゃないかなあ」 「できたら食わせろ」 ハカセは小さく頭を振った。拒否かと内心で愕然としたが、どうやらめまいがしただけらしい。目にかかった前髪をはねのけ、にっと笑う。 「うん」 マーベラスの罵声が響いた。続いて、ナビィの怒り狂った鳴き声も。 これは、ハカセに続いてサロンを出て正解だったかも知れない。ふたりは顔を見合わせ、苦笑いを交わした。 * * * 第1話よりカレーネタを。ゴーカイメンバーのなかでは、アイム以外お料理できそうな気がしますが、いつも当番を押しつけられるのはドッゴイヤーだと思います(超貧乏くじ)。ときどきジョーもしてくれそう。 ジョーは素直にしゃべってくれますが、ドッゴイヤーの台詞が他の人(主に範人とか)と混じりそうになりますorz |