ちょっと不思議/ゴーオン 連にはどうにも不思議なことがあった。この世には不思議でないことの方が少なかったが、身近な人間の中で不思議と言えば、範人か軍平のことに限られる。走輔の妙な運の良さも、早輝の底なしとも思える明るさも、確かに不思議と言えば不思議なのだが。 もうひとつ不思議と言えば、あんなに大きくてしかもタイヤしかないスピードルたちが、どうやってボンパーを作ったのかというものもあるが――。 これは考えるだけ無駄、というか、深く考えたら負けのような気がするため、この考えに行き着いたときは、すぐさま脇に避けておくようにしている。 今回、連が不思議に思ったのは軍平の方だった。コウモリのようにうろちょろしている範人も、もちろん不思議だが。 この間のスコップバンキとの一件で、軍平も少しはやわらかくなったが、走輔とはあいかわらずよく衝突する。どちらもそれなりにリーダー気質で、俺流が確固として存在しているせいかもしれない。 自分が折れることは知っているし、実際に意見をある程度曲げたり、相手を認めたりすることはできる。それなのに、あのふたりは、互いに張り合うような言動を取ることが多かった。 何だかんだと言って似たもの同士なのだろうと思うときもある。端から見ている方は少し迷惑だし、巻きこまれる確率が高い連からすると、もうちょっとおとなしくしていてほしいと思うのだが。 自ら巻きこまれに行っている範人はどう考えているのだろうか。今は訊きに行く気はしないが、そのうち聞いてみたい。 (変な答えが返ってきそうだけど) それにしても懲りないものだ。妙な動き(本人は至って真面目なつもりらしい)でうろちょろしている範人の前で、走輔と軍平が寒空の下で言い合いをしている。 5人となったゴーオンジャーの日常的風景ではあるが、ときどき、戦闘中でもときどき見られるのが困ったところだ。つかみ合いに発展するのは時間の問題だろう。巻きこまれる危険性を察知したのか、外にいた早輝がそっと車内に戻ってきた。 「軍平ってけっこうわかりやすいよねー」 入口の段に腰掛け、早輝が笑いながら言った。 「それが不思議なんだよなぁ……」 「不思議って?」 「けっこうひねくれものッスよ、彼」 「あー、確かに素直じゃないよねぇ。でもわかりやすいよね」 「そう、そこなんスよね」 そこが不思議なのだ。なんであんなにひねくれていて素直じゃないのに、こんなにもわかりやすいのか。連たちのカテゴリわけだって、泣けるほど単純に決まっている。 素人組――連、早輝。 ちょっとは見所ある――走輔。 範人はちょっとわからない。そもそも、性格的には対極とさえ見える軍平と範人が、他の誰よりも一緒にいること自体が謎なのだ。 カテゴリは謎生物でいいだろうか。 「仲いいのか悪いのか、よくわからないよねぇ、ほんと」 「まあ、仲悪かったらああやって一緒にいたりはしないんだろうけど」 「でも、仲良しではないよね。仲良しって言うのは、あたしたちみたいなことを言うんだもんね」 得意の笑顔で早輝が言う。 釣られて笑顔になりながら、連は会話を続けた。 「軍平は範人にはあまり怒らないんだよなぁ。謎ッス」 「きっと、怒ろうとしてもへにゃーんって流されちゃいそうだから、怒らないんじゃないかな?」 「へにゃーんって……」 「でも、そんな感じじゃない?」 擬音(?)はともかく、納得できないわけではない。 あのふたりにはろくな接点がなかったはずだ。出会い自体がよいものではなかったらしいし――バイト中の範人のバイクを軍平が盗む寸前だったらしい――特に仲良くなる要素が見あたらない。 まさか、一緒にバイクに乗ったから、などという理由ではないだろう。それだと、どちらかがタクシーの運転手もしくはバスの運転手をした場合、かなり面白いことになる。 「うーん、難しいね。でも、仲がいいっていいことだよね。スマイルスマイル」 お得意の言葉ではぐらかされてしまった。 本当に仲がいいかもわからないままなのに。 本人たちに訊くのがいちばん早いだろうが、軍平は「そんなつもりはない」と、範人は「そんなことないよー」と答えそうだ。特に意識してないんだけど、いつの間にか一緒にいるんだよね――いいところ、そんな返答がありそうな気がする。 こればっかりは、大きく外れた答えが返ってこないという自信がある。 不思議は不思議なままで放置しておくのがいいのか、ある程度の解決をするべきなのか、自分の感性が許すまで知るべきなのか。膨大な量の「頭の中のメモ」にアクセスしてみるが、この事例にふさわしい言葉も行動も見つからなかった。 「しばらく続くかなぁ」 どこか楽しそうな早輝の横顔にため息をつきながら、連は素早く卵をひっくり返した。 「こんな不思議で卵を焦がしてたまるか」 小さな呟きは早輝には届かなかったらしい。肩をすくめ、連は作業を続けた。 * * * 連はみんなのおかあさん……。 |