風、舞う/響鬼



 あの人はいつもバイクでやって来る。

 遠くに聞こえる排気音。
 間違いない。イブキが駆る竜巻が近づいてくる。
 艶光りする漆黒のボディは、鬼となったあの人の輝きにも似て。バイク好きなあの人がいろいろカスタマイズしたために、市販の同形車両を遙かにしのぐ化け物になってしまった、あの人の大切な相棒。
「ごめんなさい。迎えが来てるみたいだから」
 言ってあきらは駆けだした。
 ひとみが何か言っている。それに答える明日夢の声も聞こえる。日常会話に過ぎないそれらは、非日常を歩むあきらにはとても尊いものだけれど。今のあきらを止めることはできない。この先には――駆け出した道の向こうには、もっと大切でもっと偉大な目標が待っているのだ。
 あきらの指針。
 校門を飛び出す。右手の奥から音が近づいてくる。スカートの裾を翻し、あきらは走った。
 角を曲がる。その先に姿が見えた。
「イブキさん」
 煌めく竜巻にまたがるあの人は。
 あきらの隣に竜巻を止め、何も言わずうなずいた。ヘルメットを受け取り、あきらは後部座席へまたがる。
 あと何回、こうして一緒に出撃できるのかと、心の底で数えながら。

*  *  *

 初期に書いた作品。