仮面ライダー / ダブル



 衝撃が突き抜ける。背に砕けた灼熱に抗いきれない。視界が不安定に上向いた。突き上げる震動に、翔太郎は灼けたアスファルトに膝をついたことを悟った。
 体が傾ぐ。
 すべてがスローモーションのようだった。
 頭の中が真っ白になったように目を見開く少年――悪いな、こんな後味の悪いところ見せちまって。依頼も中途半端になっちまった。
 弟をかばうように抱き寄せ、真っ白にも見えるほど青ざめる少女――そうだ、その手を絶対に離すなよ。フィリップや若菜姫のような悲劇は、もうたくさんだ。
 そして、目を見開き、悲鳴を堪えるように歯を食いしばり、駆け寄ってこようとする亜樹子――頼むから、無茶はしないでくれ。ふたりを連れて、速く逃げろ。ドーパントが俺に気を取られてる隙に。
 だが、亜樹子はたどり着いた。翔太郎の傍らに。翔太郎を抱え上げようと腕を伸ばす。その手を払いのけた。
「諦めないで、翔太郎君!」
 再び手が伸ばされる。乱暴に肩を揺さぶられた。
「切り札はいつだって翔太郎君じゃない」
 ドーパントが哄笑する。
「これで邪魔がひとつ減る。切り札なんて気のせいだよ、仮面ライダー?」
「亜樹子、頼む……」
 帽子を取った。力の抜けそうな指先を叱咤し、重たい腕を持ち上げる。亜樹子の頭にかぶせると、彼女は泣き出しそうに顔を歪めた。
 首を振る仕草は、どこか幼い。もういない相棒の面影、喪失の風が、隙間だらけの心を吹き抜けていった。
 ざり、とドーパントの足音がする。亜樹子は座りこんだまま、勇ましくにらみつけた。少年たちが悲鳴のような息をもらす。声にもならないようだ。
「逃げろ、亜樹子。俺たちの依頼人を守ってくれ……」
 もう一度首を振る。バッグの肩ひもを握りしめた関節が白い。
 不意に風が逆巻いた。帽子を飛ばされまいと亜樹子は両手で押さえ、翔太郎は痛む肺を何とかなだめる。視界はぼやけていたが、致命傷ではないことは確かだ。何とか、それだけは外した。衝撃に体がついていかないだけだ。
 まだ、止まるわけにはいかない。
 風はすぐにおさまった。舞い上げられた木の葉が、どこへともなく流れていく。涼しげな葉擦れを響かせ、風がゆるやかに吹く。
「ああ……いい風だ……」
「こんないい風に抱かれて死ぬんだ」
 ドーパントが浮ついた声で言った。
「悔いはないだろ?」
「ありすぎだぜ。くそ……」
 近づく足音は唐突に止まった。重い排気音が響く。間違いない、照井のディアブロッサだ。
 だが、ドーパントの動きが止まったのは――亜樹子が呆然と目と口を大きく開き、翔太郎の喉がからからにひからびたのは、そのせいではなかった。
 亜樹子の髪から帽子が離れる。
「いい風だ」
 漆黒の髪に真っ黒な帽子が軟着陸する。あざやかなブルーグリーンのパーカーが、風をはらんで大きく翻る。
「少しは帽子が似合うようになったね、翔太郎」
「フィリップ? フィリップなのか……?」
 そこにいるのが当然のように亜樹子の隣にたたずんでいたのは、消えたはずの――地球とひとつになったはずのフィリップだった。少し汚れた帽子を粋な角度でかぶり、おだやかに笑んでいる。
 消滅も、1年の空白も感じさせない。
 さしのべられた手は温かい。幻ではない。本物のフィリップだ。その手を借り、呆然と立ち上がる。
 背後で爆音が轟く。振り返ると、ドーパントめがけ、ディアブロッサがつっこんでくるところだった。ドーパントは躊躇するように身構えたが、地に身を投げ出すように回避した。照井の左手のエンジンブレードを警戒したのだろう。勢いをつけすぎたか、橋から転げ落ちる。
 一瞬だけ振り返る仕草を見せたが、照井はそのまま愛車を走らせる。
 ゆるやかに減速し、亜樹子のすぐ隣につけた。
「待たせたな、所長」
 口をぱくぱくさせていた亜樹子は、ようやく落ち着いたようだった。ハンドルに添えられた指先に、そっと手を触れさせる。
 照井は颯爽とバイクを降りた。フィリップに視線を向ける。目元が和んだ。
「待たせてくれたな、フィリップ」
「待たせたね、照井竜」
 フィリップは芝居がかった仕草で帽子を脱いだ。まるで、喜劇役者の挨拶だ。両手で恭しく捧げ持ち、翔太郎の頭にそっと載せる。
「ただいま、翔太郎」
 突然笑いがこみ上げてきた。衝動に抗わず、翔太郎は小さく噴きだした。つられたようにフィリップの笑みも深まる。その肩に、翔太郎は軽く拳をぶつけた。
「……遅えんだよ、相棒」
「埋め合わせはするよ、相棒」
 翔太郎の肩にも、フィリップの拳が軽くぶつかる。見交わした瞳にあるのは同じ色。
 ふたりは振り返った。苛立たしげに橋に戻ってきたドーパントを、まっすぐににらみ据えた。
「そうと決まったらさっさとやるぜ、フィリップ。こいつは風都を泣かす悪ガキだ。お仕置きしてやんねえとな」
「問題ない。僕たちは、この街の涙をぬぐう2色のハンカチだからね」
「この街の風がつないだ絆だ……つきあおう」
 かざされる3色のガイアメモリ。そして、放たれるガイアウィスパー。
「お帰りなさいパーティ、しなくちゃね」
 少ししめった亜樹子の声に後押しされ、3人は今再び、風都の仮面ライダーになる。

*  *  *

 49話予告を1回視聴した時点で猛然と構築が始まった話なので、いろいろうろ覚え過ぎて困りました……。よく見たら、照井現場にいた\(^o^)/ まあ、気にしない気にしない。
 亜樹子の髪から帽子が離れる、のあたりで、脳内でW−B−Xを流して頂けると幸いです。ああ……ダブルが終わってしまうorz;;